プライバシーの尊重

2012.02.06

医療は本来プライバシーの侵害の上になり立っているだけに、プライバシーの問題は古くから重視され、ヒポクラテス以来ほとんどすべての医療倫理コードが「守秘義務」に言及しています。しかし、これは一人の医者対一人の患者というプリミティブな医療関係の中で形成された理念であります。すなわち、患者が一生を通じて一人の主治医をたよりにし、決して他人に秘密がもれることがないという安心のもとで、何事もその主治医に打ち明けることによって正しい医療が行われることを期待した時代の産物です。したがって今日の複雑な医療システムの中では「古ぼけた概念」になったという人もいて、その例として、ある患者が自分の診療記録が主治医ではなく一人の呼吸療法士によって読まれていることを知って抗議した事件が取り上げられています。この場合、職務上、直接の診療に関してだけでなく、たとえば料金請求や監査などにも関して、この患者の記録に近づく可能性のある病院職員を試みに数え上げてみたら、一〇〇人にのぼったということです。わが国の場合はアメリカほどではありませんが、チーム医療の時代になって、プライバシーを守ることが昔よりも困難になってきたことは確かです。それだからといって、もはや守秘ということが不可能あるいは無意味になったというわけではなく、チーム医療の場での守秘の困難さを率直に認めた上で、医者その他の医療者は一層の自戒が必要となったことを肝に銘じなくてはならないということでありましょう。もう一つの問題は、医者の守秘義務と公共の福祉との兼ね合い、たとえば飛行機の操縦士が精神病であった場合などですが、ここではこの問題に深入りしないことにします。